日本応用数理学会 論文賞, ベストオーサー賞 2006年度

2006年度日本応用数理学会論文賞は,同表彰規定に基づいて, 2003年3月(第13巻1号)から2005年12月(第15巻4号)の 「日本応用数理学会論文誌」および「JJIAM」に発表された論文の中から計 3編に論文賞が, 学会誌「応用数理」 に発表された論文,インダストリアルマテリアルの中からベストオーサー賞 2編が 贈呈されることに決まり,2006年 9月の年会において著者に表彰状が授与された.

論文賞
理論部門 [論文]
   悪条件連立一次方程式の精度保証付き数値計算法 (日本応用数理学会論文誌 Vol.15, No.3, 2005, pp.269-286)

[著者]
   太田 貴久(早稲田大学), 荻田 武史(JST研究員), Siegfried M. Rump(ハンブルク工科大学), 大石 進一(早稲田大学)

[受賞理由]
   本論文は, 悪条件の連立一次方程式に対する高精度内積計算を用いた精度保証付き数値計算法を提案したものである. 高精度内積計算を利用して近似逆行列を必要に応じて高精度に計算し, さらに,高精度内積計算により精確な解の残差を求めることにより, 解の要素ごとの誤差評価を自動的に行う手法を提案し,数値実験により,その有効性を示している. 連立一次方程式の解法は,科学技術計算の基本である. 近年計算の大規模化に伴い,悪条件の問題に対処することは益々重要となってきている. この状況において, ソフトウェア的には容易に実現可能でハード的にも将来的に組み込まれる可能性が 十分にある「高精度内積計算」という限定的な機能の拡張のみで, 悪条件の連立一次方程式について, 成分ごとの自動精度保証が可能となる解法を提案した意義は大きい. 計算機設計技術の発展の方向性や数値計算的観点からそのあるべき姿を見据えて研究を進めている点も評価できる.
   以上の理由により,本論文は論文賞 [理論部門] を授与するに相応しいと論文賞委員会は判断した.
ノート部門 [論文]
   仮想領域法において生ずる制約行列の計算法−四面体と三角形との交差部分の三角形分割アルゴリズム- (日本応用数理学会論文誌 Vol.15, No.4, 2005, pp.571 - 587)

[著者]
   小山 大介(電気通信大学)

[受賞理由]
   本ノートは,有限要素法系統の偏微分方程式の数値解法の一つである仮想領域法において, 要素を計算するための計算幾何学的な問題について扱ったものである. Dirichlet 境界条件の課された問題に対し, 境界に対応する要素を求めるにあたって生ずる, 四面体と三角形の交差部分を計算するためのアルゴリズムを与えている. そして,このアルゴリズムが,数値誤差により, 退化した三角形が生じた場合にも暴走しないことを証明し, 提案手法の有効性を数値実験により検証している. 本研究は,偏微分方程式の数値解法と計算幾何学の両方に跨る分野横断的な興味深い研究である.
   実用性も認められ,論文賞 [ノート部門] を授与するに相応しいと論文賞委員会は判断した.
JJIAM 部門 [論文]
   On the Finite Element Method for the Biharmonic Dirichlet Problem in Polygonal Domains; Quasi-Optimal Rate of Convergence (JJIAM Vol.22, No.1, 2005, pp.45-56)

[著者]
   水谷 明(学習院大学)

[受賞理由]
   本論文は, 与えられた多角形領域において非斉次重調和方程式の強制支持斉次境界問題に対して, 適合要素を用いた有限要素法の解の誤差評価を行ったものである.
   問題領域多角形のそれぞれの頂点の近くでは,その頂点における内角がある限度を越えて大きくなると, その近傍では解は特異性を持つ. 本論文では,その特異性に応じた収束率の事前評価を与え, その結果と整合する数値計算結果を示している. 頂点での解の特異性にかかわる先行の研究成果を利用して, ほぼ最適な事前誤差の評価に成功している.
   簡潔な論文であるが,固有値問題,シェル問題などに発展する展開が予想され, 応用数理の観点からの意義は大きい. 著者の着眼点と解析の力を評価して,本論文を2006年度の日本応用数理学会論文賞として選考した.


ベストオーサー賞
論文部門 [論文]
   メッシュ処理技術の動向と最近の話題 (応用数理 Vol.15, No.4, 2005, pp.296-309)

[著者]
   嶋田 憲司(カーネギーメロン大学)

[受賞理由]
   メッシュ処理技術は有限要素法やコンピュータ・グラフィックスなど様々な応用分野の基礎技術として, 応用数理における重要なテーマの一つである. メッシュの自動生成技術は進歩してはいるものの,まだ残されている課題も多い. 本稿では,応用される各分野で,必要とされる技術や現在の課題, それに対する最近の研究動向を解説している. 著者らの提案手法も含めた最近の結果や例題が盛り込まれており, 専門家にも有用な情報が載っていることはもちろん, 専門外の幅広い読者にも分かり易く解説している点が評価される.
論文部門 [論文]
   自動車空力騒音のシミュレーション技術 (応用数理 Vol.15, No.2, 2005, pp.148-152)

[著者]
   堀之内 成明(豊田中央研究所), 稲垣 昌英(豊田中央研究所), 加藤 由博(豊田中央研究所)

[受賞理由]
   自動車分野のみならず,鉄道車両・空調機・情報機器など様々な分野に応用可能な空力騒音のシミュレーション技術について, 解析手法・計算事例から始まって現状の課題まで, 幅広く,かつ,わかりやすく解説されており, 「応用数理」読者にとって非常に有用な情報を提供している. さらに本技術の中で,乱流モデル・音響学的予測・計算機環境の部分など, どの部分が技術のキーとなるかが丁寧に解説されており,この点も評価に値する.