日本応用数理学会 論文賞 2003年度

2003年度日本応用数理学会論文賞は,同表彰規定に基づいて, 2000年3月(第10巻1号)から 2002年12月(第12巻4号)の 「日本応用数理学会論文誌」および「JJIAM」に発表された論文の中から計 4編に論文賞が贈呈されることに決まり, 2003年 9月の年会において著者に表彰状が授与された.

論文賞
理論部門 [論文]
   平均曲率流に対する符号付距離関数を用いたレベルセット法 (日本応用数理学会論文誌 Vol.10,No.2,2000,pp.101-118)

[著者]
   木村 正人(広島大学), 野津 裕史(広島大学)

[受賞理由]
   本論文は,平均曲率流による移動境界問題に対するレベルセット法の適用において,符号付距離関数を等高面関数として導入し,有限要素法による数値計算法を提案したものである. 本手法では,レベルセット法の特徴である固定メッシュで計算することから,3次元問題への拡張性と共に,平均曲率流以外の問題への拡張性も備えている. また,界面近傍だけの計算に帰着するアルゴリズムを開発し,レベルセット法の計算上の欠点が克服されている. 本手法では,さらに界面の位相的変化の追跡も可能にしている. 論文では,計算法の精度,収束性などの有効性を数値例で示すと共に,時間ステップ,三角形要素のとり方について考察し,時間発展にともない安定な数値解が得られることを数学的に証明している.
   以上により,アイデアや計算例の有効性を強調するにとどまることが多い当該分野の研究の中で,数学的厳密な基礎付けについて研究した本論文は,理論部門として受賞に相応しいと評価された.
応用部門 [論文]
   ローラン係数を介した2次元ポアソン方程式ソース項同定逆問題の解法 (日本応用数理学会論文誌 Vol.12,No.2,2002,pp.79-101)

[著者]
   奈良 高明(東京大学), 安藤 繁(東京大学)

[受賞理由]
   本論文は,複数の双極子からなるソース項を持つ2次元ポアソン方程式において,場を複素ポテンシャルで表現することにより,双極子の個数,位置,モーメントを,境界上の離散点でのデータから計算されるローラン係数により陽に表現する手法を提案している. この手法はソースパラメタの解析的表現を与えているため,高速計算に適し,反復解法において適切な初期値を定めることができる. 論文では手法の安定性に関する考察も与えており,双極子の位置やモーメントの近さにより,サンプル点数や周回積分の周回回数を適切に設定することで,ローラン係数を高精度で計算できることを示唆している.その有効性は,数値シミュレーションにより検証されている. 本論文の手法は,その後の著者らによる多重極モーメントを用いた 3次元問題への拡張における解法のアイディアの元になっており,応用上重要であるとともに,理論的にも興味深く,示唆に富む論文である.
   以上により,本論文は応用部門の論文賞に相応しいと評価された.
実用部門 [論文]
   虚数乗法論を用いた種数2超楕円曲線暗号の効率的な構成法について (日本応用数理学会論文誌 Vol.12,No.4,2002,pp.269-279)

[著者]
   高島 克幸(三菱電機)

[受賞理由]
   本論文は,今後広く利用されることが期待されている(種数2)超楕円曲線暗号の実用的構成法を論じたものである. 虚数乗法(CM)法と呼ばれる安全な超楕円曲線暗号パラメータを構成する方法に対する改良法を示し,その有効性について詳細な解析を行っている. CM法でより多様にパラメータを構成するには「類多項式」を多数必要とするが,一般に類多項式の次数が大きくなると,その計算は困難さを増す. しかし,本改良法を適用することにより,従来報告されたことのない高次(40次)の類多項式構成が容易に行え,多様なパラメータ構成が可能となった. また,整数論の興味深い未知の性質と本改良法の解析との間の密接な関係も示されている. このように本論文は超楕円曲線暗号実用化へ大きく貢献すると共に,整数論への理論的貢献もあり,論文賞に相応しいと評価された.
JJIAM部門 [論文]
   Uniform Solvability of Finite Element Solutions in Approximate Domains, (JJIAM,Vol.18,No.2, 2001,pp.567-585)

[著者]
   Masahisa Tabata(田端 正久)

[受賞理由]
   本論文は,領域近似を考慮した有限要素誤差解析の新しい方法を提案したものである. 有限要素法では元の領域が多角形などで近似され,そこで問題が解かれる. 多くの誤差解析では,この領域の食い違いから生じる問題点を避けるために,もともとの領域が多角形領域または多面体領域であると仮定している場合が多い. これに対して本論文では,近似領域での一様可解性を示すことにより,領域の形自身が多角形に近似されることから生じる誤差も評価する方法を提案し,それを, 1) 斉次ディリクレ条件の下でのポアッソン方程式, 2) 垂直軸対称な柱状領域における斉次滑り境界条件の下での線形弾性問題, 3) 斉次ディリクレ条件の下での-ルムホルツ方程式, 4) 斉次粘着境界条件の下でのストークス方程式 に対して応用している. これらの成果は,JJIAMの中で応用数理の基礎的な課題の一つをしっかり固めたものであり,応用数理の発展に大きく寄与するものである.