日本応用数理学会 論文賞 2001年度

2001年度日本応用数理学会論文賞は,同表彰規定に基づいて, 1998年 3月(第 8巻 1号)から 2000年12月(第10巻 4号)の 「日本応用数理学会論文誌」および「JJIAM」に発表された論文の中から計 4編に論文賞が贈呈されることに決まり, 2001年10月の年会において著者に表彰状が授与された.

論文賞
理論部門 [論文]
   J. Douglasの汎関数を用いた極小曲面の数値計算法 (日本応用数理学会論文誌 Vol.10,No.1,2000,pp.21-35)

[著者]
   小林 健太(京都大学)

[受賞理由]
   本論文は,空間内に与えられた自己交差のない閉曲線を境界とする極小曲面を求める Plateau 問題の数値計算法に関するものであり,J. Douglas の汎関数を用いた新しい計算法を提案している. 即ち,境界に対する4階までの微分可能性を仮定した場合に,高速離散フーリエ変換を適用することで,従来の方法に比べて,計算の手間とメモリー消費の双方において格段に効率的で,高精度計算が可能なアルゴリズムの構成に成功している. また,離散化した問題に勾配法による反復解法を適用した場合の収束に関する必要条件についての理論的考察を行い,次いで,提案した方法と有限要素法によるものを比較するとともに,幾つかの極小曲面の数値例を計算し方法の有効性を数値的に確認している. 本論文は,古典的であるが重要な変分間題について,新しく,しかも極めて効率の良い計算方法を提案しその有効性を検証したと言う点で論文賞に相応しいと評価された.
応用部門 [論文]
   数理形態学を用いた毛筆体フォントの掠れ・惨み処理 (日本応用数理学会論文誌 Vol.10,No.3,2000,pp.263-272)

[著者]
   市川 孝之(富士総合研究所), 井戸川 知之(芝浦工業大学), 堤 正義(早稲田大学)

[受賞理由]
   本論文は,毛筆体フォントに対する擬似的な掠れ・渉み処理として提案された方法(中村,真野,世木,伊藤:情報処理学会誌,38,1997)に対し,数理形態学的な考察を加え,その処理方法に厳密な数理表現を与えると共に,それを基に,多くのパラメータを設定することを通して多様な掠れ・惨み表現を可能にしたものである. 論文では白黒の2値画像に対して幾つかの基本演算を定義し,次いで,細線化作用素を用いた骨格成分の定義と,構造要素を含む基本演算による掠れ処理,渉み処理の表現を与えている. また,確率的な処理を導入し処理に多様性を与えると共に,幾つかの実例でその効果を確認している. 本論文は定量的な評価が困難な文字の掠れ・渉み現象に対し数理的表現方法を加え,実際の処理における有用性についても実証した興味深い論文であり,今後のこの分野の研究にとって大変有用な手段を提供したもので,論文賞に相応しいと評価された.
ノート部門 [論文]
   円周率公式の改良と高速多倍長計算の実装 (日本応用数理学会論文誌 vol.9,No.4,1999,pp.165-172)

[著者]
   大浦 拓哉(京都大学)

[受賞理由]
   本論文は, E. Salamin と R. Brent による算術幾何平均を用いた円周率の計算公式を改良し,二次収束と四次収束するアルゴリズムを提案し,演算量の評価を行い方法の有効性を示している. 次いで,計算機上での実装に関して,FFTに基礎をおく乗算の高速化と,連立型のNewton反復法を用いた逆数と平方根の計算をもとに計算の効率化を図り,多倍長高速計算方法を設計している. そして,この計算方法における計算量の評価と,それを実証する数値計算を実行し,提案したアルゴリズムと計算手法の有効性を確認している. 円周率の計算は,計算機のベンチマークテストにも使われる基本的な問題であり,これまでに多くの研究がある. 本論文は幾つかの独創性に溢れるアイデアを盛り込んで従来の方法を越えると思われる計算法を提出しており,論文賞に相応しいと評価された.
JJIAM部門 [論文]
   A Mathematical Model of Solidification Dynamics of Binary Alloys (JJIAM, vol.17, No.1, 2000, pp.43-58)

[著者]
   Kazushige Sakai (Ryukoku University)

[受賞理由]
   本論文は2相合金の数学モデルを提案し,その解の挙動を計算機シミュレーションを用いて考察することによって,実験系で観察される合金構造を理論的な視点から論じたものである. ここで提案されているモデルは,凝固成長で用いられているphase field modelに属し,二つの相を一つの関数で表すものである. このようなモデル化では,合金間の界面を無視することにはなるが,その代わり,自由境界問題を解く必要がなく,通常の非線形偏微分方程式系で表されることから,計算がかなり楽になるという利点をもっている. 著者は,色々なタイプの合金に対する一般的なモデルを,自由エネルギー最小の原理から提案しており,これを通して,合金の大域的過程を考察することが可能となった. この成果は,応用数学の一つの標準的なアプローチによって,凝固成長,高分子重合などのphase field modelの進展に大きく貢献するものである.