日本応用数理学会 論文賞 1999年度

1999年度日本応用数理学会論文賞は,同表彰規定に基づいて, 1996年 3月(第 6巻 1号)から 1998年12月(第 8巻 4号)の 「日本応用数理学会論文誌」および「JJIAM」に発表された論文の中から計 4編に論文賞が贈呈されることに決まり, 1999年10月の年会において著者に表彰状が授与された.

論文賞
応用部門 [論文]
   復元波形を用いた鉄道線路の狂いの補修の数理と最適化 (日本応用数理学会論文誌 Vo1.8,No.1,1998,pp.107-133)

[著者]
   吉村 彰芳(東京工科大学), 神山 雅子(鉄道総合技術研究所), 穴見 徹広(東日本旅客鉄道), 森 忠夫(ホクリン)

[受賞理由]
   本論文は,鉄道線路の補修の問題について,軌道狂い絶対波形を特別に測量することなく,古くからある「正矢法」,「偏心矢法」等による測定法に対し,鉄道車両の振動に最も影響を与える軌道狂いの波長帯域を復元波長帯域に持つ逆フィルタを構成し,それから得られる復元波形を用いて軌道狂いを補修しようとするものである. 特に,「高低狂い」のように,一方向への修正のみが許される複雑な条件の場合も含めて,軌道の修正量を求める問題が制約条件付きの非線形計画法の2次計画問題として定式化されることを示し,この解を用いて得られた補修方法が,従来の相対基準による補修方法より大幅に優れていることを示している. 現実の問題に対し,従来にない新しい数理的なモデル化を行って解を求めることにより,実際に大幅な改善が行われることを示したと言う意味で,本論文誌応用部門での授賞にふさわしいものと評価された.
実用部門 [論文]
   定期預金のプリペイメント・リスク評価モデル (日本応用数理学会論文誌 Vol.8,No.1,1998,pp.45-66)

[著者]
   青沼 君明(東京三菱銀行), 木島 正明(東京都立大学)

[受賞理由]
   本論文は,まず,我が国の預金者の定期預金の期限前解約(プリペイメント)率を,Coxの比例ハザード・モデルにより,実データに基づいて具体的に与え,次に,定期預金をアメリカン・オプションとして眺めた場合のプレミアムをこの結果に基づいて計算している. 預金者の振る舞いは,経済合理性から見た「最適行動」.からはずれているので,得られた解は,単純な「理論的最適解」によるプレミアムと大きく異なっており,本論文が解明した預金者の振る舞いを組み込んだ期限前解約を用いてリスクを解析することの重要性が明らかにされている. 本論文は,必ずしも解明の進んでいない我が国の金融での重要な現象の一つを,既存の手法を堅実に組み合わせながら,大量の実データを用いて直ちに利用可能な評価式として定式化し,単なる応用を越えて社会的にも影響力を持ち得るほどに実用性が期待される結果が得られている点が,本論文誌の実用部門での授賞にふさわしいものと評価された.
ノート部門 [論文]
   分散メモリ型並列計算機における縦ブロック分割並列LU分解 (日本応用数理学会論文誌 Vol.8,No.3,1998,pp.373-388)

[著者]
   今村 俊幸(日本原子力研究所)

[受賞理由]
   本論文は,並列計算機上で,幅付サイクリック分割方式によってメモリーマッピングを行って行列のLU分解を行う場合に,行列サイズ,プロセッサー数,ブロック幅によって計算時間がどのように変化するかを見積もる式を与え,2っの並列計算機上で計算実験を行ってその妥当性を評価したものである. 並列計算機の普及につれ,その効果的な利用法の研究は重要性を増すと思われるが,本研究は,利用度が高いLU分解を行う行列計算において,直ちに問題となるブロック幅の決定の目安を素人にも分かりやすい形で与えることに成功している. 学術的価値とともに,一般利用者が容易に利用できる資料的価値が論文誌ノート部門での授賞にふさわしいものとして評価された.
JJIAM部門 [論文]
   Biorthogonal wavelets adapted to integral operators and their applications (JJIAM,Vol.14,No.2,1997,pp.257-277)

[著者]
   Fumio Sasaki(早稲田大学) and Michio Yamada(東京大学)

[受賞理由]
   ウェーブレットは近年新しい数理的手法として注目され,多くの分野に適用されつつある. しかし,微積分を含む処理においては,ウェーブレットが微積分作用素の固有関数ではないなどの事情から,重要であるにもかかわらずその応用は遅れていた. このような背景の中で,本論文は,ある種の積分作用素の表現行列が,その作用素に適合した双直交ウェーブレットを構成することによってブロック対角化できることを示すとともに,従来はウェーブレットではブロック対角化が不可能とされていた奇数階数微分作用素を,積分作用素の組合せでブロック対角表現できることを示し,さらにそれらを利用した方程式の高速な解法を提案したものである. ここで提案されている方法は,ウェーブレットの数値解析への新しい利用の道を開くもので,分かり易いアイデアでそれが実現されているという意味から応用上の価値も高いものである.