日本応用数理学会 論文賞, ベストオーサー賞 2013年度

2013年度日本応用数理学会論文賞,ベストオーサー賞は,同表彰規定に基づいて, 2010年 3月(第20巻第1号)から2012年12月(第22巻4号)の「日本応用数理学会論文誌」および 「JJIAM」に発表された論文の中から計 3編に論文賞が, 学会誌「応用数理」に発表された論文, インダストリアルマテリアルズの中からベストオーサー賞 2編が, 贈呈されることが決まり, 2013年 9月の年会において著者に表彰状が授与された.

論文賞
理論部門 [論文]
   第二種積分方程式に対するSinc選点法の改良とその理論解析
   (日本応用数理学会論文誌 Vol.20, No.2, 2010, pp.71--113)

[著者]
   岡山 友昭(一橋大学 経済学部 特任教員),松尾 宇泰(東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授),杉原 正顯(青山学院大学 理工学部 教授)

[受賞理由]
   本論文は,第二種積分方程式に対するSinc関数による数値計算法について, 実用性の高い計算手法を提案し,その厳密な収束証明を与えている. Sinc関数は関数近似や微分方程式,数値積分など,さまざまな数値計算上の問題に利用でき, その応用範囲は広い. 従来提案されていた計算手法の問題点を解決した上で, 関数解析的な手法によりその収束性を論じている. さらに,二重指数関数型変換を導入することにより,より高性能な計算法を新たに提案し, その収束性が改善されることを示した. ここで用いた解析手法は,本論文が対象とする積分方程式にとどまらず, 他のSinc数値計算法への発展も期待できる. 以上の理由により,論文賞委員会は本論文が論文賞(理論部門)にふさわしいと判断した.
応用部門 [論文]
   レニーのエントロピーを最大にする議席配分方式について
   (日本応用数理学会論文誌 Vol.22, No.3, 2012, pp.81--96)

[著者]
   一森 哲男(大阪工業大学 情報科学部 教授)

[受賞理由]
   近年の衆議院選挙区定数の0増5減問題にも見られるように,各選挙区に対して公平な議席配分を実現することは,重要な社会的かつ政治的課題である. 比例代表制における政党ごとの議席配分の公平な実現も同じ問題となる. 本論文は,選挙区への議席配分問題を,「生起確率が各選挙区の得票率で与えられる多項分布」を「生起確率が議席数を分母とする分数値しかとれない多項分布のクラス」により近似する問題として捉え,望ましい性質を有するとして昔から知られている議席配分方法が,レニーダイバージェンスという分布間の近似尺度を最小化するものとなっていることを示している. これは,公平な議席配分という問題の解を,情報理論や統計科学というまったく異なる立場から特徴づけることに成功している点で大変興味深いものである. 一方,最適化の立場からは,この近似問題を非線形整数計画問題と捉えることができる. 従来,手続き(アルゴリズム)として提案されてきた議席配分方法が,この非線形整数計画問題を厳密に効率的に解くアルゴリズムとなっており,その点においても興味深い. このように,本論文は,数理政治学・情報数理・最適化というまったく異なる分野に跨る横断的視点から問題を俯瞰し,分野融合的な新しい展開を拓く端緒となりうる独創的な論文として評価できる. 以上の理由により,論文賞委員会は,本論文を日本応用数理学会論文賞を授与するに相応しいと判断した.
JJIAM部門 [論文]
   Framelet analysis of some geometrical illusions
   (Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics Vol.27, Issue 1, June 2010, pp.23--46)

[著者]
   Hitoshi Arai(University of Tokyo), Shinobu Arai

[受賞理由]
   身の回りの現象を数学の言葉を用いて記述し,数学的道具が使える基盤を整える数理モデリングは,応用数理の新しい対象分野を開拓するための基礎的で重要な作業である. 本論文は,著者らが考案した単純かざぐるまフレームレットを基礎にして,画像を分解するフィルタバンクを構成し,それを幾何学的錯視の数理モデルとみなして錯視メカニズムの数理的解明に応用したものである. 本論文における大きな貢献は次のものである. 一つは,大脳皮質V4野の神経科学的かつ数学的な考察から,新しい錯視のクラスである双曲型錯視を発見したことである. もう一つは,数学的方法を用いてフラクタル螺旋錯視(新井・新井,2007)ならびに双曲型錯視の錯視成分を特定し,それが錯視成分,逆錯視成分,混合成分からなることを明らかにしたことである. これらの成分をもとの画像から選択的に除去することにより,錯視の除去,錯視の強化など錯視量の制御に成功している. 本論文は,視知覚と錯視の研究に数学的方法の有効性を示すことによってこの分野に新しい研究方法を提案するものであり,応用数理の発展に大きく貢献するものであると評価できる.


ベストオーサー賞
論文部門 [論文]
   心電図の数理
   (応用数理 Vol.22, No.4, 2012, pp.8--16)

[著者]
   岡田 純一(東京大学)

[受賞理由]
   本論文は, 電気伝導体としての人体モデルに始まり,心筋細胞の電気生理学的特性を細胞膜上のイオンチャネルの振る舞いを中心に解説し,最終的に心筋細胞の集合体である心臓全体にわたる電流の流れを記述するバイドメイン方程式へ至る道のりを示し, 心電図データが生成される原理とそのモデル化をわかりやすく伝えている. そして, バイドメイン方程式を有限要素法により解く方法を示し, 健常者のCTデータを基にした現実的なモデル上で並列計算機を利用することにより心電図を再現しており, 著者の数値モデルと解法の実用性が実証されている. さらに, イオンチャネルモデルの違いが心電図に及ぼす影響についてのシミュレーション結果とそれに対する考察は, 心電図データの利用が数理的研究から得られる知見を通してより有意義なものになる可能性を示すものである. 以上によりベストオーサー賞選考委員会は, 本論文が日本応用数理学会ベストオーサー賞にふさわしいものと評価した.
インダストリアルマテリアルズ部門 [論文]
   数値数式最適化技術のものづくりへの適用
   (応用数理 Vol.22, No.1, 2012, pp.40--44)

[著者]
   岩根 秀直(富士通研究所)

[受賞理由]
   本論文は, 浮動小数点演算を用いた近似計算の数値手法と, 代数的な記号計算を行い誤差の発生しない数式処理手法を組み合わせた多目的最適化に対する手法を紹介したものである. 最初に, 多目的最適化に対する解法として, 数値手法と数式処理手法の特徴を簡単な例も挙げながら簡潔に説明している. その上で, 両者を組み合わせることによって, それぞれの長所を生かした数値数式手法を概説するとともに, 実際にその数値数式手法をSRAMセルのモデルベース設計の現場で適用した例を紹介している. SRAM設計においては, 読み書きの不良率とSRAM面積の最小化が重要な課題であるが, 具体的な問題に適用し, 数値数式手法の方が数値手法に比して良い解を与えることを例証している. これは, 従来の数値手法では十分な精度が得られない場合でも, 数式処理手法を組み合わせることによって改善される可能性を示唆しており, 今後さらなる発展が強く期待される. 以上によりベストオーサー賞選考委員会は, 本論文が日本応用数理学会ベストオーサー賞にふさわしいものと評価した.